
おすすめ:★★★★★ (★5の中)
※ 少しネタバレがあります。映画をご覧になった方、または内容を知っていても構わない方のみ、お読みください。
Netflixで配信中の韓国ドラマ『悪縁』は、最初はよくある復讐劇かと思っていたのですが、見進めるうちにその印象は大きく覆されました。
これは、単なる善と悪の対立ではなく、壊れた人生の中でそれでも何かを取り戻そうとする人間の切実な願いと痛みを描いた作品です。


特にパク・ヘスさんの演技は圧巻でした。彼がなぜ“悪”の中心にいるのかが明かされるあのシーンでの表情は、今でも頭から離れません。静かに、でも確実に感情を揺さぶってくる彼の芝居には、何度も息をのまされました。
それにしても、最近のパク・ヘスさん、どんどん“悪縁”専門俳優になりつつあるような…気のせいでしょうか?(笑)
基本情報
主な登場人物
キム・ボムジュン(パク・ヘス)
<日本語吹き替え:中川慶一>
イ・ユジョンの高校時代の先輩で、学生時代から様々な不良行為や犯罪に手を染めてきた人物。最初はハン・サンフンから金を巻き上げることが目的だったが、朝鮮族のチャン・ギルリョンに誘われ、さらに大きな犯罪に関与するようになる。しかしその犯罪がきっかけで人生が狂い始め、やがて最悪の結末を迎えることになる。
イ・ジュヨン(シン・ミナ)
<日本語吹き替え:小松由佳>
学生時代、パク・ジェヨン一味に性的暴行を受けた過去を持つ。ある日、自分の病院に「パク・ジェヨン」と名乗る患者が現れ、彼女のトラウマを刺激する。ジェヨンへの憎しみと人間性の間で葛藤しながらも、ついには彼を殺す決心をし、自らのトラウマを乗り越えようとする。
パク・ジェヨン(イ・ヒジュン)
<日本語吹き替え:新井裕樹>
物語の事件の発端となる張本人。学生時代から荒れた人生を送り、イ・ジュヨンに対する集団暴行の主犯格でもあった。その後も堕落した生活を続け、多額の闇金借金により臓器売買の対象にまで追い込まれる。そんな中、父の生命保険金5億ウォンの証書を発見し、チャン・ギルリョンに父親の殺害を依頼する。
チャン・ギルリョン(キム・ソンギュン)
<日本語吹き替え:井上和彦>
延辺出身の朝鮮族で、かつては華龍市の三合会のボス。パク・ジェヨンからの依頼で父親の殺害を請け負うことになる。刑務所で知り合ったキム・ボムジュンと共に犯行に及ぶが、計画通りには進まず、彼の運命も狂い始める。
ハン・サンフン(イ・グァンス)
<日本語吹き替え:前田剛>
韓医学の医師で、イ・ユジョンと交際していた。しかし、実際はキム・ボムジュンと共謀したユジョンが、彼の金を巻き上げられるために近づかれたのだった。ある日、飲酒運転中に老人を轢いてしまい、その目撃者を買収して死体を埋める。しかしその目撃者に脅され続け、次第に追い詰められていく。
イ・ユジョン(コン・スンヨン)
<日本語吹き替え:杏寺 円花>
イ・ジュヨンの高校の同級生で、職業は「結婚詐欺師(꽃뱀, コッベム)」。キム・ボムジュンと組んで男性を誘惑し、金を騙し取ることを生業としている。ハン・サンフンもその被害者の一人だったが、ボムジュンの急な計画変更により、仕方なく深く犯罪に関わることになる。
特別出演
ユン・ジョンミン(キム・ナムギル)
<日本語吹き替え:森山千尋>
ソンシム総合病院の脳神経外科医で、イ・ジュヨンの恋人でもある。温厚で誠実な性格を持ち、ジュヨンの良き相談相手となる存在。しかし、彼にも誰にも言えない深い秘密があった。
闇金業者(チョ・ジヌン)
パク・ジェヨンが借金した金融業者の代表であり、臓器売買組織のボスでもある。ある意味、本作の中で最も恐ろしい存在かもしれない…。
あらすじ

どん底の人生を送っているパク・ジェヨンは、闇金の借金を返せず、臓器を売られる寸前の状況に追い込まれる。そんな彼に、闇金業者は「1ヶ月」という猶予を与える。
その矢先、ジェヨンは自分の父親の生命保険金が5億ウォンであり、しかもその受取人が自分であることを知る。そしてついに、父親を殺す決意を固める。
彼はかつて同じ職場で働いていた朝鮮族のチャン・ギルリョンに殺害を依頼し、「必ず事故死に見せかけること」を条件に、保険金のうち2億ウォンを報酬として支払うと約束する。
翌日、警察から父親が亡くなったとの知らせを受けるが、それは「事故死ではなく他殺の可能性が高い」と告げられる。これに激怒したジェヨンは、ギルリョンと激しく口論することになる。
『悪縁』 海外・韓国評価指標(4月11日現在)
個人的な感想
一言で言えば「最高」。
原作は読んでいなかったため、『悪縁』というタイトルからてっきり復讐劇かと思っていましたが、全く違った展開で、かえって新鮮に感じました。
①「赤い糸」が持つ意味

ポスターを見ると、登場人物たちが複雑に赤い糸で結ばれていますよね。韓国では赤い糸は「縁」を意味するので、「どれだけ悪い縁で結ばれているんだろう…」と思っていました。でもドラマを見た後にポスターを見返すと、その糸にも意味があったことに気づきました。結び方の順番を見ると、まさに“悪縁”で繋がっている人物たちだったんです。
② 予測不可能な展開

この手のジャンルは中盤まで見ればなんとなく展開が読めるものですが、『悪縁』は第1話から全く先が読めませんでした。
エピソードは「パク・ジェヨンとチャン・ギルリョン」、「キム・ボムジュン、イ・ユジョン、ハン・サンフン」、「イ・ジュヨンとユン・ジョンミン」という3組に分けられますが、序盤ではこの3つのグループがどう繋がるのか全く分かりません。
しかし、ある人物がすべての中心にいると分かった瞬間、それぞれの“悪縁”が一気に絡み合い、息をつく暇もなく物語が加速していきます。
③ 特別出演の存在感

ドラマ公開前からキム・ナムギルとチョ・ジヌンの特別出演は話題になっていましたが、いざ見てみると「これが特別出演?」と思うほど強烈な存在感でした。
特にキム・ナムギルは、最初は珍しくロマンスキャラかと期待していましたが、実は臓器密売のアルバイトをしていたという衝撃展開。
最終的には恋人のために“人間”であることを放棄する姿を見て、「やっぱり…」と残念に思ってしまいました(笑)。
キム・ナムギルの純粋なラブストーリー、いつか見てみたいですね。
④ ブラックコメディとしての笑い


『悪縁』というタイトルとスリラーというジャンルから、全体的に重苦しい作品を想像する方が多いと思います。でも実際は違いました。
ブラックコメディの要素が絶妙に散りばめられており、重たい雰囲気が続く中にも思わず笑ってしまう場面があります。
特に笑いの要素を担っているのはキム・ボムジュンとハン・サンフンの二人。考えてみたら、どちらもちょっと抜けたキャラクターですよね(笑)。
⑤ イ・ジュヨンというキャラクターへの惜しさ

この作品は本当に完成度が高くて、大満足でした。ただ一つ、惜しい点があるとすれば、イ・ジュヨンというキャラクターの描かれ方です。
彼女は作中で最も深い傷を持つ被害者であり、ある意味このドラマの核心とも言える存在です。
登場人物の中で唯一「善」を選んだ彼女だからこそ、もっと能動的で積極的な姿が見たかったのですが、結局は周囲に振り回され、受動的な形で終わってしまったのが残念でした。
そのせいで、監督が伝えたかったメッセージが少し弱くなった印象も否めません。
監督が語るドラマの裏話
① 原作とは異なるキャラクター設定
Netflixドラマ『悪縁』はウェブ漫画を原作にしていますが、キャラクター設定を大胆にアレンジしたことで高く評価されました。
以下はイ・イルヒョン監督がインタビューで語った内容です。
「原作と一番異なる点は、ウェブトゥーンではギルリョン(キム・ソンギュン)と目撃者(パク・ヘス)が同一人物であり、それが“どんでん返し”の要素だったんです。でもそれは映像化できないと思いました。視聴者がキム・ソンギュンさんとパク・ヘスさんを同一人物として認識するのは難しいですよね。
だからまず最初にその“つながり”を断ち切るところから脚本作業を始めました。『縁』というテーマをどう構成するかが重要でした。キャラクターや面白い状況をただ断片的に見せるのではなく、“こうやって繋がってるんだ”、“循環しているんだ”と感じてもらえるように、小さな設定もたくさん追加しました。
シチュエーションを単に面白く見せるのではなく、長い呼吸で進めるべきだと考えました。そのため、いろいろな技法を盛り込みました。原作は2回だけ読み、すぐに脚本作業に入りました。脚本を書いている間は原作を再読しませんでした。頭の中に残った印象的なシーンだけを頼りに映像化に入ったんです。
たとえばジョンミンのキャラクターは、原作でも似たような役割ですが、それほど詳しく描かれてはいません。でも彼は最終的に“悪縁”の輪を断ち切る重要な人物になるので、主人公との関係性や“臓器売買を行う医者”という設定にも説得力を持たせるために、彼の背景に関するエピソードを追加しました。
それから、“観る人にとって分かりやすい作品”にすることも意識しました。原作を最初に読んだ時に思ったのは、映画『ファーゴ』(1996年作、アメリカ)のように撮れるんじゃないかということ。キャラクターたちはグロテスクな選択をしますが、当人にとっては深刻なことであっても、少し距離を置いて見ると滑稽に見えるかもしれない。だから、むしろそういう作品を参考にしました。」
② ロレックス時計が持つ意味
作品の中で象徴的に描かれるアイテムの一つに「ロレックスの腕時計」があります。
このロレックスは、パク・ジェヨンの父親が所有していたもので、ジェヨンは犯罪を計画する前に勝手にこの時計を持ち出します。そしてその時計はキム・ボムジュンの手に渡り、最後にはユン・ジョンミンのもとへと流れていきます。
視聴者の間では、「ロレックスを持った人物たちはみんな悲惨な結末を迎えたのだから、ユン・ジョンミンもまた罪を償うことになるのでは?」という考察が飛び交いました。
これに対してイ・イルヒョン監督がこう明かしています。
「物語を書きながら、何か“邪悪な気”を象徴するメタファーがあればいいなと思ったんです。サチ業者がこの時計をつけて、自分の父親を殺すことから物語が始まりますよね。その時計が目撃者に渡るわけですが、それは一種の“邪悪な欲望”の象徴なんです。
ジョンミンの行動も恋人のためとはいえ、最終的には人を傷つけるものであり、“悪”の方法論であることには変わりません。それを視聴者がドラマチックに感じられるように、時計が人から人へと渡っていく演出にしたんです。」
いかがでしたか?
『悪縁』というタイトルが持つ重たい響きとは裏腹に、深い人間関係の描写やブラックコメディ的な要素、そして予想を裏切るストーリー展開が絶妙に絡み合った、まさに“縁”というテーマにふさわしい秀作でした。
今後もこの作品のように、視聴者にいろんな感情を与えてくれる韓国ドラマがもっと増えてくれると嬉しいですね。
『悪縁』、本当におすすめです!