
おすすめ:★★★★☆ (★5の中)
※ 少しネタバレがあります。ドラマをご覧になった方、または内容を知っていても構わない方のみ、お読みください。
最近、JTBCのドラマ『オク氏夫人伝』を完走しました。
以前からその名を耳にしていた『オク氏夫人伝』ですが、なかなか観る機会がなく、先延ばしにしていたところ、最近俳優チュ・ヨンウに興味を持ち、視聴を始めました。
するとふと思い出したのが、昨年深い余韻を残したMBCの時代劇ロマンス『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』でした。

この2作品はどちらも朝鮮時代を舞台に、男女の人生と愛を描いており、物語の主体が「女性」であるという点で共通点を見つけました。
そこで今後数回にわたり、特別企画として両作品に関するブログ投稿を行っていきたいと思います。
予定している投稿の順序は以下の通りです:
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2023年の話題作、MBC『恋人』紹介と感想
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現在放送中のJTBC『オク氏夫人伝』紹介と感想(予定)
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2作品『恋人』と『オク氏夫人伝』の比較考察(予定)
今回はその第一弾として、多くの人々が“人生ドラマ”に挙げる『恋人』についてご紹介します。
基本情報

主な登場人物

(1)イ・ジャンヒョン(演:ナムグン・ミン)

突如としてヌングンリに現れた謎の男。表向きは金銭を追い求め、儒者たちを嘲笑うが、内には深い悲しみを抱えている。ユ・ギルチェとの出会いをきっかけに、彼の心に変化が生まれる。
(2)ユ・ギルチェ(演:アン・ウンジン)

名門士大夫ユ・ギョヨンの長女。多くの男性を魅了するが、ナム・ヨンジュンだけは心を動かせない。彼への想いを募らせる中、イ・ジャンヒョンの登場により心が揺れ動く。
(3)ナム・ヨンジュン(演:イ・ハクジュ)

成均館の儒生で、ギルチェの初恋の相手。両親を早くに亡くし、ヌングン里の人々に育てられた。真面目で誠実な青年。
(4)キョン・ウネ(演:イ・ダイン)

ヨンジュンの婚約者であり、ギルチェの友人。理想的な女性像を体現し、二人の関係に複雑な感情を抱く。
(5)リャンウム(演:キム・ユンウ)

朝鮮最高の歌い手で、神秘的な雰囲気を持つ。ジャンヒョンとは義兄弟の契りを結ぶが、彼に対して特別な感情を抱いている。
その他の登場人物
- カクファ(演:イ・チョンア)
清の皇女で、戦争の中でジャンヒョンと出会い、彼に興味を持つ。
- ク・ジャム(演:パク・ガンソプ)
義州のならず者で、ジャンヒョンを兄貴と慕う。
- ソヒョン世子(演:キム・ムジュン)
朝鮮の王子で、父である仁祖のもと、国の安泰を願う。
- カンビン(演:チョン・ヘウォン)
ソヒョン世子の妃で、清への人質生活を共にする。
あらすじ
時は17世紀、朝鮮。激動の戦乱時代、丙子胡乱(へいしこらん)という大きな戦争が迫る中、恋に臆病な男と、誇り高く強い女性が出会う。互いに正反対の性格を持つ二人が、戦火と運命の中で少しずつ惹かれ合い、変わっていく姿を描いたラブストーリー。
時代背景:丙子胡乱(へいしこらん)とは?
丙子胡乱とは、1636年(朝鮮・仁祖14年)の12月から翌年1月にかけて、清(しん)国が朝鮮を侵略し、勃発した戦争です。当時、朝鮮は長年にわたり明(みん)との外交関係を重視していたため、新たに台頭してきた後金(のちの清)とは対立関係にありました。清は朝鮮に対して「皇帝の国」として自らを認め、朝貢するよう要求しましたが、朝鮮はこれを拒否。その結果、清の太宗(たいそう)は大軍を率いて朝鮮に侵攻したのです。約47日間に及ぶこの戦争は、最終的に朝鮮の敗北に終わり、国王・仁祖は清の皇帝の前で「三拝九叩頭礼(さんぱいきゅうこうとうれい)」という、三度の礼拝と九度の土下座を行うという屈辱的な降伏儀式を強いられました。(この出来事は映画『南漢山城(ナムハンサンソン)』でも描かれています)結果として朝鮮は清との君臣関係を結ぶこととなり、多くの民が捕虜として連れて行かれたり、命を落としたりと大きな苦難を経験しました。ドラマ『恋人(연인)』は、まさにこの苛烈な時代を背景に描かれた物語です。
受賞記録(主な賞)
<2023 MBC 演技大賞>
- 今年のドラマ賞
- 大賞:ナムグン・ミン
- 最優秀演技賞:アン・ウンジン
- ベストカップル賞:ナムグン・ミン & アン・ウンジン
- 助演男優賞:チェ・ヨンウ
- 新人女優賞:パク・ジョンヨン
- 新人男優賞:キム・ユヌ、キム・ムジュン
- ベストキャラクター賞:キム・ジョンテ
<第60回 百想芸術大賞>
- テレビ部門 男性最優秀演技賞:ナムグン・ミン
- テレビ部門 ドラマ作品賞
個人的な感想
(1) 10年ぶりの時代劇復帰、その名に恥じないナムグン・ミンの圧倒的な演技力


俳優ナムグン・ミンが、ドラマ『クアム ホ・ジュン』(MBC、2013年)以来、約10年ぶりに時代劇に帰ってくるというニュースだけでも、『恋人』は放送前から大きな期待を集めていました。そして彼は、やはりその期待を裏切りませんでした。
イ・ジャンヒョンというキャラクターは、 時にはおどけて軽快な姿を見せながらも、内面には深い悲しみと恋人への一途な愛情を秘めた、非常に複雑な人物です。ナムグン・ミンは、彼特有の正確な発声と繊細な眼差し、そして爆発的な感情表現を通じて、まさに“イ・ジャンヒョンそのもの”を体現しました。
彼の演技は単なる台詞の伝達を超え、キャラクターの苦悩や悲しみ、愛の感情を視聴者にそのまま伝え、作品への没入度を極限まで引き上げました。
特に、愛する人を守るためにすべてを投げ出す切実さと哀切さを同時に表現する彼の姿には、毎回息を呑むような感動がありました。
「信じて観られる俳優」という称号が全く惜しくない、圧倒的な存在感でした。
(2) 初の時代劇主演、輝く存在感を証明したアン・ウンジン


ユ・ギルチェ役を演じた女優アン・ウンジンにとって、本作は初めての時代劇主演作だと聞いています。
現代劇で見せていたキュートで愛らしい魅力とはまた違う、深みのある演技を見せ、視聴者に強烈な印象を残しました。
ギルチェは、最初は世間知らずのお嬢様として登場しますが、戦争の悲惨さを経験しながら誰よりも強く、主体的な女性へと成長していきます。
アン・ウンジンは、序盤の生意気で元気な姿から、戦乱の中で愛する人を守ろうと奮闘する強さ、そしてイ・ジャンヒョンとの切ないロマンスまで――ギルチェの多層的な変化を繊細に描き出し、キャラクターに命を吹き込みました。
多くの懸念の声がある中でも、自分だけの「ユ・ギルチェ像」を見事に確立し、ナムグン・ミンとの演技の相性も抜群でした。本作を通じて、アン・ウンジンという俳優の新たな可能性と幅広い演技力が確かに証明されたと感じました。
(3) 男性中心の物語を越えて、女性の成長と連帯を描いた時代劇

これまで多くの時代劇は、王や男性の英雄を中心としたストーリーが主流でした。
しかし『恋人』は、丙子胡乱という混乱の時代において、ユ・ギルチェという一人の女性が経験する苦難とそれを乗り越える成長ストーリーに重きを置いている点が、非常に印象的でした。
ギルチェは単に男性主人公に愛される受動的な存在ではなく、自らの力で人生を切り開き、周囲の人々を守る能動的なキャラクターとして描かれています。また、ギルチェとウネをはじめとした女性たちの友情と連帯も感動的に描かれました。
戦争という極限状況の中で、お互いに頼り合い、支え合う女性たちの姿は、これまでの時代劇ではあまり見ることができなかった新鮮な描写でした。
こうした女性中心の物語は、視聴者に新しさと深い共感を与えたと思います。
(4) 壮絶な時代描写、美しい映像美、心に響くOSTの調和

『恋人』は、丙子胡乱という悲惨な歴史をリアルに描きながらも、そこに込められた人間の感情を繊細にとらえた映像美が際立っていました。
戦争の悲惨さとは対照的な美しい自然の風景や、登場人物の感情を最大限に引き出す洗練されたミザンセーヌは、一枚の絵画のようでした。
特に光と影を巧みに使った演出は、ドラマ全体の雰囲気に深みを与えていました。
そして、感動をさらに高めたのが、間違いなくOSTです。
(G)I-DLE(現I-DLE)・ミヨンの「月明かりに描かれて」や、キム・ピルの「僕と行こう」などの珠玉の楽曲が、各シーンの雰囲気や登場人物の感情と完璧に融合し、視聴者の心と耳を虜にしました。
静かで感覚的な映像と叙情的なOSTの調和が、『恋人』を単なるドラマではなく、一つの芸術作品として感じさせてくれました。
ドラマ『恋人』は、久しぶりに心から感動した時代劇ロマンスでした。
しっかりとしたストーリーが心を揺さぶり、美しい映像からは韓国ドラマの進化を感じました。
次回の投稿では、現在放送中の『オク氏夫人伝』をご紹介しながら、この作品の魅力についても語っていこうと思います。
『恋人』とはまた違う時代、違う女性の物語がどのように描かれるのか、ぜひ楽しみにしていただけたら嬉しいです。
*1:여자)아이들