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“自由”を求める魂の追走——映画『脱走』レビュー

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おすすめ:★★★★ (★5つ中)

※ ネタバレを若干含みます。映画をすでにご覧になった方、または内容を知っていても構わないという方のみお読みください。

 

ついに明日、日本公開となる韓国映画『脱走』。

今年初めにこの作品がOTTに配信されたと聞き、VPNを使って先に観たんです。評価もすごく高かったし、個人的に好きなイ・ジェフンさんとク・ギョファンさんが出演しているので、迷うことなく視聴しました。そして、ついにこの映画が日本でも公開されて、本当に嬉しいです!

本作は、北朝鮮兵士と韓国兵士という二人の男が38度線で繰り広げる“逃走”と“追跡”のサスペンスドラマです。主演を務めるのは、『モガディシュ 脱出までの14日間』で強烈な印象を残したイ・ジェフと、『D.P. -脱走兵追跡官-』で知られるク・ギョファン。

まさに“逃げる男”と“追う男”を演じるにふさわしい二人が激突します!

映画『脱走』基本情報

  • 韓国タイトル: 탈주(タルジュ)
  • 韓国公開日: 2024年7月3日
  • 日本公開日: 2025年6月20日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
  • ジャンル: ドラマ、アクション
  • 上映時間: 94分
  • 監督: イ・ジョンピル
  • 脚本: イ・ジョンピル
  • 出演: イ・ジェフン、ク・ギョファン、ホン・サビン、ソン・ガン、ソ・ヒョヌ、チョン・ジュンウォン、イ・ソム ほか

あらすじ

厳しい統制と監視の下に置かれた北朝鮮。保障された未来ではなく、自由を選んだ北朝鮮軍兵士イム・ギュナム(イ・ジェフン)は、命を懸けて“脱走”を図る。
彼にとって鉄条網を越えることは、自由へと通じるただ一つの道だった。
しかしその行動を阻止すべく、北朝鮮保衛部の将校リ・ヒョンサン(ク・ギョファン)は、執念深くギュナムの行方を追う。
ヒョンサンはギュナムの脱走が体制への脅威になると直感し、全てを懸けて彼を追い詰めていく。
命懸けの逃走と容赦ない追跡――

二人の男は、息を呑むような対決へと突き進んでいく。

主な登場人物

(1)イム・ギュナム(イ・ジェフン)

北朝鮮体制に疑念を抱き、自由を渇望する北朝鮮軍の兵士です。定められた未来ではなく、自らの人生を選ぶために脱走を決意します。自由への強い意志と、祖国を裏切る罪悪感との間で葛藤する複雑な心を抱えています。極限状況で必死に逃走しながらも、決して希望を失わない、強固な精神力を持つ人物です。

(2)リ・ヒョンサン(ク・ギョファン)

ギュナムを追う北朝鮮保衛部の将校です。優秀なエリート軍人で、冷徹な判断力を持つ人物。ギュナムの脱走を阻むため、あらゆる手段を駆使します。任務に忠実でありながらも、追跡の過程で人間的な混乱と自身の過去を見つめ直すなど、立体的な人物像を見せます。

(3)キム・ドンヒョク(ホン・サビン)

ギュナムと共に脱走を試みる北朝鮮軍の兵士です。ギュナムへの信頼が厚く、共に自由を夢見る同志として彼を支えます。登場は短いながらも強い印象を残し、映画の緊張感を高める役割を果たします。

(4)ホン中尉(ソ・ヒョヌ)

イム・ギュナムが所属する人民軍第1師団の連隊を担当する警務部の軍官。燃料がガソリンか軽油かすら疑うほどギュナムを警戒しますが、逆に上官から叱責されてしまいます。後にギュナムの脱走に気づくも逃がしてしまい、最終的にはリ・ヒョンサンに銃撃されます。

(5)リュ・デウク(ユ・テジュ)

保衛部所属の軍官であり、ヒョンサンの直属の部下です。ホン中尉と親しい関係で、彼の電話でギュナムの脱走をヒョンサンに知らせます。その後、ギュナムとキム・ドンヒョクを追跡するも逃がしてしまい、ヒョンサンの信頼を失います。

(6)パク・ジュンヒョン(チョン・ジュンウォン)

ギュナムとキム・ドンヒョクの脱走事件を第1師団民警大隊に報告する軍官です。部下たちが飢えをしのぐために地雷を踏んで死んだイノシシを焼こうとした際、それを丸ごと奪い取るなど、意地悪な行動を取ります。

(7)ソン・ウミン(ソン・ガン)

特別出演でありながら、圧倒的な存在感を放つ人物です。ヒョンサンの過去に関わる重要な人物として、宴会場で踊るヒョンサンを遠くから見つめたり、他者といるヒョンサンにピアノ演奏を頼んだりする姿が印象的です。ヒョンサンは携帯に彼の名前を「俺が愛した野郎」と保存しています。

主な受賞歴・評価

  • 第15回大衆文化芸術賞 国務総理表彰(イ・ジェフン)
  • 第45回青龍映画賞 清正園人気スター賞(ク・ギョファン)
  • 2024 ソウル国際映画対象 監督賞
  • 観客評価:韓国 Naver映画基準:7.94/10(2025年6月19日現在)

個人的な感想

(1)イ・ジェフンとク・ギョファンの演技

イ・ジェフンさんが演じる脱北兵ギュナムは、自由を渇望しながらも祖国を裏切った罪悪感に苛まれる複雑な人物です。彼の目と表情には、生存への必死さと人間としての苦悩が繊細に表れています。特に、命懸けの逃走の中でも希望を捨てないその強い意志は、イ・ジェフンさんの迫力ある演技で見事に伝わってきました。

一方、ク・ギョファンさんが演じた軍人ヒョンサンは、任務を遂行する冷徹な軍人としての姿と、人間的な混乱の間で葛藤する様を驚くほど繊細に描き出しています。彼は追う者でありながら、ギュナムを通じて自らの内面を見つめているかのような微妙な感情を見せ、言葉がなくとも目と視線だけで互いに深く影響し合う関係を完璧に表現しています。

この二人の演技アンサンブルが、作品の緊張感を最大限に引き上げ、観客を感情の渦に深く引き込む最大の原動力となっています。

(2)北朝鮮の現ではなく人間的苦が主題

『脱走』は単なる南北対立や戦争映画ではありません。逃走と追跡という極限状態の中で、人間はどこまで自由を求め、他者をどこまで理解し共感できるのかを問いかけます。そして、その過程で、追う者もまた何かから逃げていることに気づくのです。特殊な背景である北朝鮮を舞台にしながらも、焦点は個人の選択と葛藤であり、観客に深い思索を与えます。

ギュナムの脱走は、単なる体制からの離脱ではなく、自分自身の人生を生きたいという人間の根本的な欲求を象徴しています。ヒョンサンもまたギュナムを追ううちに、自らの信念と感情の間で揺れ動く姿を見せます。このように『脱走』は、北朝鮮という舞台を通じて人間の普遍的な感情と葛藤を深く掘り下げており、多くの余韻を残してくれる作品です。

(3)圧倒的な現場感が入を加速

最も印象的だったのは、圧倒的な現場感です。鬱蒼とした森の中での追跡シーン、台詞なしで視線と息遣いだけでつながる二人の対峙は、観客の没入感を自然と引き起こします。広大な自然を背景に繰り広げられる逃走劇は、息が詰まるような緊迫感を届け、「まるでその場にいるかのようだ」という錯覚さえ覚えるでしょう。

特に、アクションではなく“沈黙”と“視線”で伝える緊張感は、韓国映画が持つ最強の武器であり、『脱走』がそれを再び証明した一作です。

登場人物の微妙な表情の変化、荒い息遣い、森の微かな音までもがスクリーンを満たし、観客の神経を研ぎ澄ませます。このような繊細な演出が、『脱走』をただの追跡スリラーではなく、深い余韻を残す作品へと昇華させているのです。

(4)ソンガンの存在感

特別出演でありながら圧倒的な存在感を放つのは、ソン・ガンさんが演じるソン・ウミンです。短い登場にもかかわらず、彼は圧巻の存在感で観客の視線を一気に引きつけます。その登場はヒョンサンの過去と密接に結びつき、物語に予想外の深さと複雑さを加えています。

(ソン・ウミンがリ・ヒョンサンに電話をかけるシーンの撮影現場ビハインド映像↓↓↓)


www.youtube.com

特に女性ファンの間では「ク・ギョファンとソン・ガンのBL」と冗談混じりに言われるほどケミストリーが強く印象に残りました。ソン・ウミンの登場はヒョンサンに人間らしい側面を与え、その感情線を理解する鍵ともなります。数シーンだけで複雑な感情を完璧に描き出し、『脱走』のもう一つの魅力となりました。彼の特別出演は、この作品の重要な魅力ポイントと言えるでしょう。

『脱走』のビハインドストーリー

  • ク・ギョファンさんは、劇中でのピアノ演奏シーン(約5秒)のために、なんと1ヶ月間も猛練習して挑んだそうです。彼の演技にかける情熱が伺えるエピソードですね。
  • イ・ジェフンさんは、ギュナム役のために体重を58kgまで減量しました。最小限のタンパク質と炭水化物のみの摂取で体重を維持したというから、彼の役への没入ぶりが分かります。
  • 2021年、第42回青龍映画賞の新人監督賞授賞者として登壇したイ・ジェフンさんは、「もし自分が映画監督なら、出演してほしい俳優は?」との質問に、出演ではなく「共演したい俳優がいる」と答えました。そしてその後、客席にいるク・ギョファンさんを指名して照れながらハートのサインを送ったのです。驚くことに、この二人が今回の映画『脱走』で共演することになりました。このエピソードは、二人の出会いがどれほど特別だったかを示していますね。
  • 実際に映画のように北朝鮮軍に所属していた後、2012年に休戦線を越えて韓国に亡命した北朝鮮脱走者ユーチューバー、チョン・ハヌルさんが、本作の北朝鮮関連アドバイザーを務めました。彼は北朝鮮方言の校正を行い、主演俳優たちに教え、端役としても出演して映画のリアリティを高めたそうです。
  • ギュナム役のイ・ジェフンさんの最初の撮影は、実は映画内の最後のシーンだったといいます。最終シーンではギュナムが髪を長く伸ばしたまま終わる設定だったため、その後に髪を短く切る必要があり、最初にその撮影が行われたそうです。
  • 公開直後、ヒョンサンとソン・ウミンの関係について多くの憶測が飛び交いました。通話シーンでソン・ウミンがヒョンサンの携帯に「내가 사랑했던 개자식(俺が愛した野郎)」という意味のロシア語で名前を登録していたことから、二人の関係性を巡る議論が起こったのです。しかし、監督はクィアコードを意図したわけではなく、むしろ関係性を曖昧な領域に置きたかったと述べています。

 

『脱走』は、単なる南北間の対立構図を描く戦争映画ではありません。逃走と追跡という極限状況の中で、人間はどこまで自由を求め、他者を理解し共感できるのかを問いかけます。そしてその過程で、追う者もまた何かから逃げていることに気づいていくのです。

『シュリ』や『工作』など、南北を舞台にした名作は多いですが、『脱走』は特に“感情の距離”に焦点を当てた作品です。言葉よりも、視線や呼吸で語る——それこそがこの映画の真の魅力であると感じました。

ラストシーンに込められた余韻と希望は、観客の心に静かな波紋を広げます。国家と個人、任務と感情の狭間で揺れる二人。その物語は国境を越えて、誰の胸にも深い響きを与えてくれるでしょう。

静かだけれど、最も熱い“脱走劇”。この夏、ぜひ劇場でその物語を体感してほしいです。あなたはこの映画を通じて、どんな“脱走”を夢見るでしょうか?